七尾旅人と志人の共通した二つのモチーフ(1)はこちら
兵士と兵隊
七尾旅人が2016年発売したDVD作品「兵士A」には、タイトル曲「兵士Aくんの歌」という歌が収録されています。
このDVDは2015年11月19日に行われたライブを撮影したもので、公演当日に配布されたパンフレットには、兵士Aくんについて
近い将来、数十年ぶりに1人目の戦死者となる自衛官、または日本国防軍兵士
と説明されており、歌では
- (未来に必ず現れる君は)どんな人なのだろう
という視点と、Aくんが戦死したことを知る
- 友達、兄弟、恋人、母親
の視点で詩が書かれています。
Aくん自体の視点は登場せず、歌はシリアス・現実的であり、Aくんが未来に現れることを予言しているように聞こえます。
七尾旅人は2007年9月に発表した「9.11 FANTASIA」というアルバムでも戦争を描いています。2051年9月11日に歌の主人公が「孫」と思われる人物にアメリカの月面着陸のこと、911のこと、歌の主人公が体験した戦争のことを語り(歌い)聞かせる、という途方もない内容です。
「911 FANTASIA」と「兵士A」のどちらにも「エアプレーン」という曲が収録されています。911の飛行機と、歌の主人公が乗っている戦闘機についての歌です。ぜひ聞き比べてみてください。
一方、志人
志人が2018年に発表した「位相空間EP」というEPには「To be Boranist or ・・・」という曲があります。
この曲では、植物博士になりたかったはずの男が、ある日目覚めると兵隊になっていた、という詩がラップされています。
歌の主人公は、事故を装って総司令官を撃ち、しかし自分のしたことに苛まれて目覚めると今度はタンポポになっており、総司令官に似た子供に踏みつけられたり、捕虜に似た根切り虫にかじられたり・・・と悪夢的なというか、カフカ的な展開をみせる歌です。
兵隊になる、という重いはずのテーマですが、軽やかなピアノも相まって、どこかコミカルな印象があります。
父ちゃんとじいちゃん、兵士と兵隊
2016年~2018年、同じ時期に二人の偉大な歌手が、二つの共通するモチーフを選び、それぞれまったく違う表現をしていました。どっちも最高!