「メシ喰うな!」を聞くのは最後でいい

INUの「メシ喰うな!」は凄い作品だ。

でも町田康aka町蔵はその後にもっといい作品を沢山つくっている。メシ喰うなだけが、さも名盤であるかのように語られているのを目にすると、結局ほか聞いてないじゃないか、と思う。全然いいと思ってないじゃん。

だから他の作品を紹介する。メシ喰うなを聞くのは最後でいい。もっといいのがたくさんあるから。

腹ふり

1992年の作品。町田町蔵+北澤組 名義。

三拍子の勇敢なリズムに乗せて「お前は生きる価値がない」と歌う「生きる価値」が素晴らしい。町田康の著書「壊色」に

生きる価値という絶望的な歌詞の曲がある。何とか救いをと後半、中国のゴングを叩きまくってもらった。

壊色

という記述がある。ゴング以外にも、歯をカチカチ鳴らす音や、口をすぼめて息を吸い込むような音(その音はなぜか肛門を思わせる)などが呪いのように刻印されている。

「Power to the People」を「権力を人民に」と訳した「パワートゥーザピープル」も素晴らしい。詩でここまで暴力的になれるか、という作品だ。最初に聞くのはこれがいいかもしれない。腹ふりはのちの「パンク侍、斬られて候」にでてくる宗教団体の名前となる。

駐車場のヨハネ

1994年の作品。町田町蔵+北澤組 名義。

7分を超える「洟たれキーオ」が圧巻。キーオに語り続ける曲。キーオは、作りかけの教会の前で腕組みをして洟をたらし、ひかり輝き、腐りかけ、卑劣で、儀式を永久に続ける。すごすぎる。ほぼエレキギターのみに合わせて歌う「駐車場のヨハネ」も素晴らしい。

どうにかなる

1995年の作品。町田康+The Glory名義。

今聞くとデジロック風に処理されたドラムの音が古く感じる、と思いきや歌が素晴らしい。「すべてとすべてとすべてを剥奪されてわたしはラッキー」と歌う「倖いラッキー」、モーゼに語りかける「悔い改め」など、暴力満載でありながら、讃美歌をそのままカバーした「グロリア」などに度肝を抜かれる。「どうにかなる」という言葉は、「Let It Be」を意訳したのと、(頭が)どうにかなる、というダブルミーニングだと思う。

脳内シャッフル革命

1997年の作品。町田康 名義だが、メンバーにはドラム北澤孝一、キーボード野口泰次、ギター小山耕太郎など北澤組のメンバーの名前が並んでいる。ベースは飼沼丞二でThe Gloryの人。

捨て曲なしとはこのことか、というくらい名曲が続く。これが廃盤とかありえない。「子と子の合図でししゃもがはばたいた」と歌う「坊主が無え」、遠く離れた恋人たちがうどんを食って思い出す「阿呆のソール」。どの著書に書かれていたか忘れたが、雑誌の企画で複数の一般の人が書いた歌詞を町田康が見る機会があったらしく、使われている単語を分類していくと、ほとんど同じ単語しか使われていないことに気づいた、という記述があったと思う。「うどん」という単語は、コミックソング以外で日本語の歌に登場することは無いのではないだろうか。この人はこの歌詞を意識的に書いていると思う。のちに発表される歌には焼きそばがでてくるし。

心のユニット

2002年の作品。町田康&佐藤タイジ名義。

町田康(町蔵も)の音楽作品には、徹底して泣きのメロディーはでてこなかった。デビューから21年、これが初めてではないだろうか。素晴らしい。

ミラクルヤング

2003年の作品。ミラクルヤング名義。

これはかなり入手困難だと思う。一般に流通してなくて、下北沢のある店舗でだけ売っていたはず。私も後からオークションサイトで買ったので、確かなことは知らない。そんな幻の作品であるが、内容が素晴らしすぎる。5曲入りで全曲いいが、「あいつらの腰の揉みかた そいつがむかつくんだって」と歌う「退屈なレイニー」は圧巻。もし見つけたら迷わず買ってください。

live 2004 oct 6th

2005年の作品。machida kou group 名義。ミラクルヤング作品に参加のドラム高橋ロジャー、ギター内藤幸也が参加。

ライブ盤だが音いいし、ここでしか聞けない曲もある。これも入手困難。ネット販売とライブ会場のみの発売だったと思う。見つけたら即買いで。のちに正式発表される「頭が腐る」収録。「春子の方がそら悪い」もいい。全部いい。が、特筆すべきは中島らも作詞作曲の「KYOKO」だろう。ド演歌だがいい。人類愛のように聞こえる「名前の歌」は、予約客だったか招待客だったか詳細は忘れたが、客の名前を歌っていっただけと何かで聞いたことがあるような気がする、違っていたらすみません。

犬とチャーハンのすきま

2010年の作品。町田康 名義。

ついに石橋英子と邂逅。これが発表されるまでが長かった。発表の何年か前にライブがあって、そこで曲はすでに披露されていた。だから発表までヤキモキした。ライブで石橋英子はドラムとピアノとフルートとマリンバをかわるがわる演奏し、歌もうたっていてヤバかった。才能の邂逅とはこのことか、というくらい全曲いい。「うどんのなかの世界」は、世界をうどんの中と外の二つに分けている。驚くべきことに、確かに世界はうどんの中か外かのどちらかなのだ。狂っているようにみえて破綻していない、これが町田康の恐ろしさだろう。彼のほうが正しい可能性があるのだ。

メシ喰うな!

1981年の作品。INU 名義。

私は1983年に生まれたので、町田町蔵のことを知らずに育った。知ったとき、町蔵は「ちょうぞう」と読むと思っていたし、INUは「アイエヌユー」と読むと思っていた。アルファベット3文字のミュージシャン多かったし。インターネットなかったし。私も誤解していたし、多くの人がまだ誤解していると思う。これが一番いい作品じゃねーから。

19歳で詩が仕上がってるというのは驚愕だが、声が若すぎる。この声で判断されたくない。もっとすごくなるから。とはいえ「写真屋のおっさんの 石で刻み込まれたような皺」という歌い出しはすごすぎる。それこそ石で刻み込まれたように残るだろう。でももっとすごいのつくってるから。この記事に書いた作品たちの前にも、後にも。聞いてないのに知ったようなこと言うなっつーの。遊興費で買うな 生活費削れ