twitterで誰かがzzzpeakerの動画を回していて、彼のことを知った。
その動画でzzzpeakerは地下鉄の入り口の階段の裏みたいな場所で歌っていた。スマホの充電ケーブルを、アコースティックギターとストラップをつなぐために結んでいる姿が目を引いた。あの質感の白い紐はスマホの充電ケーブルしかない。大量に流れていくtwitterの動画にまぎれて「スマホ登場以降に存在する弾き語りの人」というのが一瞬で伝わったのが面白いと思った。だから動画の音声をオンにした。
果たして、その曲はとてもよかった(Hitchという曲名らしい)。
見た目が面白くて、曲がいい。zzzpeakerの第一印象は、私にとって最高だった。
ほどなくしてzzzpeakerがメルマガで作品を発表する、とツイートした。zzzpeakerが指定したメールアドレスに空メールを送ると、返信で作品が届くということらしかった。だからすぐにメールを送った。2分後にメールが届いた。
メールは短い文章に、章を割り振るように数字が充てられていて、11章の文章と写真画像で構成されていた。そのうちのいくつかの章にはリンクが貼られていて、ファイル転送サイトに飛んで、zzzpeakerの曲データをダウンロードできるようになっていた。メールはGmailで、ファイル転送サイトはギガファイル便で、すべて無料で作品を発表できるようになっているのが面白かった。そんな出し方をしてるのはzzzpeakerが初めてだった。
メール内の文章や歌の歌詞からすると、どうもzzzpeakerは家なき人のようだった。
俺ん家でもう一杯呑みなおそうや って死ぬまでに一度は 言ってみたいセリフだけれど そもそも僕には家と呼べるものがない
もう一杯
その作品への支払いは、客が値段を決めて、メールに記載されている振込先に振込むらしかった。
私は個人的に、音楽家への投げ銭が嫌いだ。いくら払えばいいのか、というプレッシャーを客側に委ねられると、そのことに意識の何%かは持っていかれ、音楽にとって邪魔になるからだ。音楽家が値段を決めて、その分演奏してくれた方が集中できる。だから投げ銭、と言われると「コジキかよ」と心の中で毒づく。
ところが、zzzpeakerに対して「コジキかよ」とは言えない。「そうです」と応えられたら、次私は何と言えばいいのか。ナイフを突きつけたはずが、逆に喉元に突き返されるのだ。彼には端的に金を払うしかない。
彼のSNSをたどっていくと、過去にblack albumとwhite albumというアルバムを出しているらしかった(CD-Rのようだが)。是非聞きたかったので、件のアドレスに連絡をした。
残念ながらその2枚のアルバムは手に入らなかったが、ライブに行ったとき、彼のスーツケースに入っていた、何が収録されているかわからないというCD-Rを売ってもらった。こんなことも他の音楽家ならあり得ないが、彼がCDを再生できる環境にいないとしたら、仕方がない。家に帰って確認したが、ちゃんと彼の曲が8曲入っていた。
まったく得体が知れない人だと思っていた矢先、2019年にHEADZから「グルパリ」名義でアルバムを出していたことを知った(言ってくれよ)。
zzzpeakerとは何者か。とにかくチェックするしかない。そして金を払うしかない。豪邸に住んでもらおうじゃないか。