∈Y∋のバタフライエフェクト

2024年11月3日、荒川放水路通水100周年記念のイベント「Arv100」で披露された∈Y∋のパフォーマンスが素晴らしかった。

∈Y∋はその日、荒川ロックゲートという水門で、クレーンに吊るされながら、上空から200人のシンバル奏者(そのイベントではシンバラーと呼ばれていた)を指揮した。シンバラーは一般からの公募で集まったらしく、老若男女さまざまであった。∈Y∋のtwitterによると、10%は小学生だったらしい。

シンバラーには一人一つのシンバルが割り当てられていて、それぞれが∈Y∋の指揮に合わせて2本のバチでシンバルを叩いていた。シンバラーは14メートルの水路を隔てて4つのエリアに分かれて均等に配置されていた。その中心(の上空)に∈Y∋は吊るされていた。

異様だったのは、指揮者の∈Y∋がシンバラーの方向ではなく、終始空に向かって仰向けになっていたことだ。∈Y∋は何に向かっていたのか?クラシック音楽の流儀に当てはめるならば、∈Y∋は荒川(地面)に音を聞かせていることになる。しかし、奏者も地面にいるので、音を空に向けている、と感じるのが妥当なように思う。

∈Y∋は2018年にもSADO INFINITY 88 Cymbalで、水が張られた透明なバスタブのようなものに浮かびながら(つまり今回の空中仰向け状態に似ている)、同様に多数のシンバル奏者を指揮していた。だから∈Y∋にとっては指揮者が空を向いているというのは異様でも何でもないのだろう。

クレーンを頂点にして、∈Y∋が寝転ぶ細長い長方形のスペースの四隅が紐でつないであり、ピラミッド状の中で∈Y∋は指揮をしていた。

子供の頃、Steve Vaiというギタリストが精神を高めるためだが何だかで、自宅にあるピラミッドの中でレコーディングをした、とかいう記事を雑誌で見て、友達と「何の意味があるんだ!」「自宅にあるピラミッドって何だ!」とか言ってゲラゲラ笑っていたが、あれも笑っていいものではなかったのかもしれない。もしかしたら今∈Y∋はSteve Vaiと同じ感覚を持っているのかもしれない。

シンバラーは∈Y∋の手の動きに合わせて演奏するのだが、

  • ∈Y∋が手を向けたエリアは演奏開始する。2エリア同時に鳴らしたい場合は∈Y∋は手をその中間に向ける(両手を使えば全エリアが演奏することになる)
  • 手の上下によって音量を変える。水平なら最少音量、空に向かえば最大音量。シンバラーは基本的に連打
  • 一撃のクラッシュ音。タイミングが難しそうだが、∈Y∋が手をゆっくり3回転させてから肘をグッと引くのが合図。見ていて気持ちがよかった
  • ∈Y∋の指揮がなくても、あるパターンを続けろ、という両手を使った合図

この4つがルールらしかった。

シンバル以外にも音はあって、DMBQが深く関わっているようだった。ギタリストが2人いて、音色はギターというよりはエレピに近く、ナチュラルハーモニクスを多用していた。∈Y∋としか言いようのない、テープの回転速度を極端に上げたり下げたりするような音、これはCDJで出しているらしかった。

これらの音が混ざって、半ば茫然としていた中盤ころ、遠くからバスドラムの音が聞こえてきた。演奏者の編成の中にバスドラムの音を出すようなものは見えなかったので、何だろうと思っていたら、∈Y∋を釣り上げていたクレーンがさらに上にあがり、その真下に大きい船がやってきた。船上にはドラマーがいて、これか、と思った。

この船が真下にやってくるという演出は、だから何なんだと思うこともできるだろうが、やはり素直にアガった。

全部で40分くらいの合奏で、終わった後、素直に元気がでてきた。

11月だったが空は晴れわたり、暑すぎるくらいの気候だった。∈Y∋は終了後twitterに「晴れてよかった」とシンプルに一言添えていたが、本当に晴れていて最高だった。

∈Y∋ありがとう!