Jorja SmithのBlue Lightsを訳す

2018年、イギリスのR&BシンガーのJorja Smith が素晴らしいアルバム「Lost & Found」をリリースしました。

外国人と接することが極端に少ない環境で育った私は、彼女の写真をみて(とてもかわいい!)、彼女が黒人なのか白人なのかわかりませんでした。どちらにも見えるのです。しかし、そう思うのは的外れな感覚ではなかったようです。彼女はお父さんが黒人で、お母さんが白人だそうです。

彼女の代表曲「Blue Lights」が誕生したのは、そのような彼女のアイデンティティーが関係しているのかもしれません。

Blue Lights

切迫感とクールな感覚が通底しており、歌はソウルフルで、転調がどこか現実から一瞬離れるような「マジックリアリズム」を思わせる、めちゃくちゃかっこいい曲で、一聴で好きになったのですが、英語がわからず、詩が何を表現しているのかわかりませんでした。

I wanna turn those blue lights into strobe lights

Blue Lights

「ブルーライトをストロボライトに変えたいの」
どうやらラブソングではないようなのですが、何のことを言っているのかわかりませんでした。ので、調べました。

Blue Lights は、イギリスではパトカーのランプのこと

学生だったころ、Jorjaはメディア学でポストコロニアル理論(ポスト植民地主義・帝国主義)を調べていました。彼女が題材として選んだのが、Dizzie Rascalの「Sirens」という曲のMVでした(そのMVではDizzie Rascalは、白人の上流階級のキツネ狩りゲームの獲物にされ、街を逃げ回っています)。「Sirens」では、「サイレンが聞こえたら逃げろ」と繰り返し歌われています。このMVにインスパイアされ、「Blue Lights」を作ったそうです(また、Blue Lights では、Sirens に出てくる「サイレンが聞こえたら」というDizzie Rascalのラップがサンプリングされています)。

Grimeミュージックと警察の関係に注目した彼女は、学校の子供たちにインタビューします(その多くは黒人だったようです)。そこで、彼女は彼らが警察に対して敵意と恐怖心を持っていることを知ります。

What have you done?

genius.com

「何かしたの?」と彼らに聞くと

Nothing, but I hate them.

という答えが返ってきます。何もしていないのに彼らが「Guilty Conscience」「罪悪感」を持っていることに、彼女は違和感を持ちます。これがこの曲のキーになっています。

I wanna turn those blue lights into strobe lights

Not blue flashing lights, maybe fairy lights

Blue Lights

Blue Lights はイギリスではパトカーのランプを意味します。この歌の中で、Blue Lights は、彼女の友達を苦しめている根拠のない罪悪感、制度に対する恐怖を意味しているのだと思います。

「ブルーライトをストロボに変えたいの(罪悪感の光を、罪のないストロボ(クラブで使われるような光)に変えたいの)」

When you hear the sirens coming

You better not run ‘cause the sirens not coming for you

What have you done?

Blue Lights

「サイレンが聞こえても 逃げる必要なんてないの サイレンはあなたを追ってるわけじゃない だって悪いことなんて何もしてないでしょ?」

Gun crime into your right ear

Drugs and violence into your left

Default white headphones flooding the auditory

Blue Lights

「Default white headphones 」はiphoneを買ったときについてくるデフォルトの白いイヤフォンを意味するようです。
そのイヤフォンで右耳からは銃犯罪について、左耳には薬物と暴力についての音楽を聞いている「歌の主人公」が描写されています。この音楽はGrimeを暗示しています。

You’re sitting on the 4 back home

Blue Lights

この「4」はJorja が実際によく乗っていたバスの番号だそうです(参照:BBCによるインタビュー)。歌の主人公はJorjaと重なっていきます。

“Where you at, G? Answer your phone!”

Blue Lights

「G」はJorjaの愛称だそうです(参照:BBCによるインタビュー)。家に帰るバスの中で、iphoneでグライムを聞いていた主人公のスマホに友達からメッセージが届きます。「今どこにいる?電話ちょうだい!」友達に返事するため、主人公はスマホの音楽を止めます。主人公はなにか不吉な予感を感じます。

Tall black shadow as you’re getting off the bus

Blue Lights

genius.comにJorjaの体験談が記されています。彼女の友達が、彼女の家に鞄を置き忘れた話です。鞄を持ってみると、とても軽いことを彼女は不審に思います。中を開けてみると、そこにはナイフが入っていました。彼女は何事もなかったようにその鞄を友達に返すのですが、このことが彼女にインスピレーションを与えます。友達は悪さをするような人ではないと信じているけど、彼はそのナイフで何か事件を起こす可能性があるのだ、と彼女は思います。「Tall black shadow」は事件を起こした場合の架空の彼を示しています。

もし彼が事件を起こして、「大変なことをしてしまった、友達だろう?助けてくれ!」と彼が言ったら、「私」はどうするのか。さっき歌でバスの中で届いたメッセージ「今どこにいる?電話ちょうだい」は、彼が事件を起こしたことを示しているのです。

ここで「サイレンが聞こえても 逃げる必要なんてないの だって悪いことなんて何もしてないでしょ?」 と繰り返し歌っていた主人公は、一転します。

Run when you hear the sirens coming

Better run when you hear the sirens coming

When you hear the sirens coming

The blue lights are coming for you

Blue Lights

「逃げて サイレンが聞こえたら ブルーライトはあなたを追っているの」

ここで歌はもっともスリリングなピークに達します。

この歌は、お洒落なブルースやラブソングではなく、彼女のストリートの歌なのです。

是非聞いてみてください。

Jorjaの発音

日本ではカタカナ表記で「ジョルジャ」と表記されていますが、インタビュー番組で確認すると「ジョー・Rの発音・ジャ」と発音しています。カタカナで表記するなら「ジョージャ」のほうが近いです。こういうとこちゃんとやれよなーレコード会社。