「女のラップってなんか物足りないよね」という無知な者にはMoe and ghostsの「幽霊たち」を聞かせれば話は済む。幽霊たちはそのくらいに決定的なアルバムだ。
幽霊たちは2012年の8月に発売された。何年か経って聞くたびに、やっぱいいな、と驚くことになる。
Moe and ghostsはラッパーの萌さんとトラックメイカーのユージーン・カイムさんの二人のユニットらしい。二人なのにユージーン・カイムさんは「and ghosts」に集約されていいのだろうか。また、なぜ「ghosts」と複数形なのだろうか。サンプリングした全ての音楽家たちを含む、という心意気なのだろうか。
インタビューではトラック制作について
本格的に曲を作ったのは今回がはじめてです。
ユージーン・カイム ototoyのインタビュー
と語っている。はじめてでこんな音を作れるのだろうか。楽器が弾ける人という気がする。全曲でベースが非常に効いているので、そう思われる。スネアの音が特徴的で、上物はサンプリングが主体だが、ビートは自分で組んでいると思われる。後にベースを足しているのではないだろうか。
ユージーン・カイムさんというのは萌さんの「友人・向井さん」なのだろうか。「向井ユウジさん」なのだろうか。あるいは萌さんは「友人・皆無」つまりトラックメイカーはそもそも存在せず、萌さんがトラックも作っている一人のプロジェクトなのだろうか。そうだとしたら「and ghosts」というアーティスト名もしっくりくる。萌さんのラップはどこか知性とパラノイアが混ざったような印象を受け、淡々としながら畳みかける歌い方もあいまって「友人・皆無」であっても不思議ではないような気もする。
ところで2020年の現在、久しぶりにMoe and ghostsを聞いて感じ入り、なんとなく複数の言葉でインターネットを検索してまた驚いた。萌さんのまったく違う情報がヒットしたからだ。個人情報だから書かないが、ディガーならその情報にたどり着くだろう。当たり前だが、やはりこの人はどんなラッパーとも違う。ひとことで言うと、すげーポップな人だな、ということと、そんな地元のレペゼンの仕方ある?ということだ。
この人は周りを幸せにする人という気がする。その素敵な笑顔がそう思わせる。だから、上に書いた「友人・皆無」説は的外れだろう。